死、それは生きる者が必ず経験する通過儀礼です。人間の場合、死は生物的にも社会的にも厳粛かつ厳存でなければなりません。多くの死は家族や医師に看取られて迎えられますが、時には事故や自殺、そして死に方のわからない予期せぬ死も訪れます。
病気になり診療を受けつつ、診断されているその病気で亡くなることが「普通の死」であり、それ以外の死を「異状死」と呼びます。つまり、不慮の事故、自殺、他殺、死因不明など、確実に診断された病死以外の全てが異状死に該当します。異状死を発見した人や死亡確認した医師は警察に通報し、死者は警察官の検視をうけます。
筑波剖検センターは、異状死の原因を究明し、遺族をはじめとした死者周囲の人々の「死に方」に関する疑問に答えるために設立された施設で、警察や医療機関からの要請により検案(外表検査)、死後画像検査(オートプシーイメージング;Ai)、解剖などを行っています。
筑波剖検センター長 早川 秀幸
医療機関の皆様へ
筑波剖検センターで解剖の対象となるのは異状死体に限定されますので、解剖に先立って医療機関から警察へ異状死届出をお願いいたします。病理解剖のご依頼には応じかねますのでご了承ください。
当センターの業務内容
1)検案
ご遺体の外表観察や現場状況、病歴などに基づいて死因の判断を行います。原則としてご遺体に傷をつけることはありませんが、体内の出血の有無などを確認するため細い針を刺す検査(穿刺検査)を行うことがあります。外表観察や穿刺検査で得られる医学情報は限られているため、死因診断の精度は高くありません。
2)死後画像検査
ご遺体に対してCT、MRIなどによる画像検査を行います。ご遺体に傷をつけることなく、体の中の様子がある程度把握できます。検査時間はCTで15分、MRIで1時間程度です。検案に比べると死因診断の精度は高くなりますが、画像検査で検出できない傷病も多く、死因確定率は30%程度とされます。
3)解剖
ご遺体にメスを入れ、体の中の様子を直接観察します。この際、臓器片や血液などを採取・保存し、解剖終了後に顕微鏡検査や血液検査、薬毒物検査などを行って死因を判断します。すべての検査が終了するまでには最短でも2~3カ月ほどかかります。現状では最も精度の高い検査法ですが、検査を尽くしても異常が見つからず、死因が確定できないこともあります。
当センターでは以下の3種類の解剖を実施しています。
①司法解剖
事件性のあるご遺体を対象とする解剖です。裁判所の許可を得て行う解剖で、ご遺族が拒否することはできません。
②承諾解剖
事件性はありませんが、検視・検案では死因が確定できなかったご遺体を対象とする解剖です。ご遺族の承諾のもとに実施されます。
③調査解剖
死因身元調査法という法律に基づいて行われる解剖で、茨城県では調査解剖と呼ばれています(統一された略称はなく、地域により調査法解剖、新法解剖、署長権限解剖などとも呼ばれます)。事件性がなく、検視・検案では死因が確定できなかったご遺体を対象とする点では承諾解剖と同様ですが、ご遺族の承諾は不要で、警察署長の権限によって解剖が行われます。
4)その他の業務
①損傷の分析
体に残された怪我が、いつ、どのようにしてできたものなのかを分析・検討します。生きている方の怪我も対象としています。依頼元は主として警察、検察庁、児童相談所などです。
②死因等に関するセカンドオピニオン
既に死亡診断書(死体検案書)が発行されている方に関して、死因等について再検討します。依頼元は主として警察、検察庁、民間保険会社などです。
年度別業務実績
※横スクロールができます
年度 | 承諾解剖 | 司法解剖 | 調査解剖 | 死体検案 |
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1986年 | 27 | - | - | - |
1987年 | 25 | - | - | - |
1988年 | 17 | - | - | - |
1989年 | 30 | - | - | - |
1990年 | 34 | - | - | - |
1991年 | 30 | - | - | - |
1992年 | 31 | - | - | - |
1993年 | 37 | - | - | - |
1994年 | 38 | - | - | - |
1995年 | 39 | - | - | - |
1996年 | 45 | - | - | - |
1997年 | 26 | - | - | - |
1998年 | 33 | - | - | - |
1999年 | 52 | - | - | - |
2000年 | 48 | - | - | - |
2001年 | 39 | - | - | - |
2002年 | 53 | - | - | - |
2003年 | 38 | - | - | - |
2004年 | 38 | - | - | - |
2005年 | 42 | - | - | - |
2006年 | 42 | - | - | 33 |
2007年 | 62 | - | - | 35 |
2008年 | 53 | - | - | 56 |
2009年 | 82 | - | - | 75 |
2010年 | 125 | - | - | 110 |
2011年 | 144 | 39 | - | 120 |
2012年 | 75 | 106 | - | 101 |
2013年 | 122 | 74 | 40 | 97 |
2014年 | 71 | 59 | 40 | 72 |
2015年 | 107 | 108 | 51 | 109 |
2016年 | 80 | 72 | 53 | 309 |
2017年 | 64 | 36 | 43 | 388 |
2018年 | 46 | 20 | 40 | 371 |
2019年 | 50 | 19 | 42 | 346 |
2020年 | 43 | 7 | 40 | 264 |
2021年 | 23 | 6 | 42 | 263 |
合計 | 1,911 | 546 | 391 | 2,749 |
死因究明の流れ
1.入院、外来通院、在宅医療など、医療管理下でお亡くなりになった場合
治療中の病気で亡くなったのであれば異状死には該当しませんので、警察へ届出することなく死因は確定します。
病気以外で亡くなった場合や死因不明の場合は異状死に該当しますので、警察への届け出がなされます。
2.医療管理下以外でお亡くなりになった場合
原則として全例、警察に届け出がなされます。
3.異状死の死因究明
警察がお亡くなりになった方の生活状況や人間関係、死亡に至る状況などを捜査すると共に、ご遺体の外表を確認します(検視)。警察の検視後、医師が検案を行います。必要があれば、死後画像検査や解剖による死因精査が行われ、死因が確定します。
茨城県では死後画像検査の実施率は50%を超えている一方、解剖率は10%に届きません。
筑波剖検センターへのお問い合わせ
TEL.029-851-3511